龍神沼の自由帳

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水雷強襲艦3

 日米主力艦隊による決戦が発生した場合、水雷強襲艦はどのように戦場に投入されるのか。そしてその戦いの中でどんな役割を期待されているのか。想定される各局面を見ながら具体的な戦術を見ていく。
 1)偵察戦  
 米軍の侵攻を待ち受ける形での艦隊決戦で決着をつけるのが日本海軍の基本戦略であるからには、米艦隊の動きを常に捕らえ適切なタイミングで戦力投入する必要がある。そのための偵察戦力として、潜水艦・飛行艇・艦上偵察機がある。艦載水偵を主力艦から降ろした代わりに強化された空母群の偵察力が、この局面では威力を発揮するものと考えられる。この段階で早くも日米空母による前哨戦が惹起される可能性も考えられるが、双方ともここでは積極的な攻勢に出るとは考えにくいので、起ったとしても偶発的な小規模なものになるだろう。
 2)航空戦
 米軍による日本軍航空拠点に対する航空攻撃が発生、対抗する日本軍基地航空隊による米艦隊への攻撃、日本軍空母機動部隊が米機動部隊攻撃に向けて本格的な攻撃を開始する。日米の機動部隊戦力は拮抗している為、どちらかが有利な形での戦いにはならないだろう。指揮官が積極的なら双方とも戦力をすり減らし、そうでない場合は決定的な損害を出す前にいったん後方に部隊を下げることになる。米軍の航空拠点への攻撃は徹底さを欠いたものとなり、基地航空部隊による米主力艦隊への攻撃が実行されることになるが、戦力不足により大きな戦果を上げることはないだろう。
 3)潜水艦戦
 それまでは偵察任務が主だった潜水艦群が、本格的に米艦隊襲撃に投入される。従来は敵主力艦への攻撃が期待されていたが、戦術の変更により米前衛艦隊の巡洋艦駆逐艦あるいは航空母艦への攻撃が優先される。しかし運動性に優れ対潜装備も充実している前衛艦隊相手では、日本軍潜水艦による攻撃は大きな戦果は期待できないものと考えられる。従来の戦術ではこの段階に続いて、高速戦艦隊、重巡洋艦戦隊、水雷戦隊で編成された第2艦隊による夜間襲撃戦が想定されていたが、こちらも戦術の変更により実施されることはない。
 4)主力艦による艦隊決戦
 双方の主力艦隊が接近、戦艦同士による直接対決が近づく。この時点で戦闘可能な空母は日米どちらも主力艦隊の上空援護を主任務にするだろう。それまで決着のついていなかった空母同士の戦いも再び発生することになる。この結果空母機動部隊は、主力艦による決戦の勝敗に大きく関与することはないだろう。基地航空部隊もこの時点では戦力を大きく消耗し、打撃力を喪失していると思われる。そして艦隊決戦は、水上艦艇による砲雷撃戦によってその決着をつけることになる。
 戦術変更以前の構想では、高速戦艦重巡洋艦に支援された水雷戦隊が、米前衛艦隊の壁をこじ開けて米戦艦に対して雷撃、それから主力戦艦群が漸減作戦とあいまって打ち減らされた米戦艦群に砲撃戦を挑み勝利するというシナリオだった。改定されたシナリオでは、日本艦隊はその高機動性を活かし巧みに米戦艦群との直接対決を避け、米巡洋艦駆逐艦群に対して殲滅戦を仕掛ける。米前衛艦隊に対して充分な打撃を与えた段階で水雷強襲戦隊を投入、それに合わせて主力艦隊は米戦艦群との直接対決に移行する。随伴する巡洋艦戦隊や水雷戦隊は、米戦艦群を守る直衛艦隊に向け攻撃を開始する。米艦隊がそれぞれ目の前の敵に対処するのに精一杯になった時点で水雷強襲戦隊が米戦艦群に突撃を開始、肉薄雷撃によって一挙米戦艦群を覆滅するものとなっていた。
 防御力機動力に重点を置いて改装された日本の戦艦は、短時間に終る戦艦同士の砲撃戦を生き延びることができるだろう。そして主力艦を軽微な損害で温存することのできた日本は、米艦隊が再建されるまでの間一方的に太平洋を支配することができ、日本に有利な形で戦争を終らせることができる。しかし日本海軍が水雷強襲艦によって甘い夢を見ることができたのは、ほんの3〜4年間に過ぎなかった。航空機の発達と艦載機の運用法の進化は、戦艦の時代に終わりを告げようとしていた。そして鯱が巨鯨を集団で襲うように水雷強襲艦が群を成して米戦艦を襲撃する光景は一度として実現することなく、水雷強襲艦はその姿を戦場に見せぬまま舞台から消えていくことになる。ただ一回の戦いだけを別にして。