龍神沼の自由帳

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【中部太平洋】覇者の戦塵"ブーゲンビル逆上陸戦"其の3【総力戦】

 (第3章)空母光鷹
 光鷹と改名されてから、この空母に海兵隊の戦爆が着艦するのは自分が最初だろう。黒崎一飛曹は、久しぶりに見る艦影に機首を向けながら考えていた。しかし蓮見大佐も無茶をする、大佐のごり押しがなければ、光鷹は今頃内地で整備を受けているはずだった。乗員も休暇を貰い羽を伸ばせるところだったと思うと、心なしか光鷹乗員が海兵隊機を怨嗟の眼差しで見上げているような気がしてきた。
 蓮見大佐がインド洋から内地に向かっていた光鷹を、海兵隊機の輸送という名目でトラックに呼び寄せたこと自体が一下士官に過ぎない黒崎上飛曹の眼から見ても異常なことだった。そして今、その光鷹を使って海兵隊は新型戦爆海燕の発着艦訓練を行おうとしている。頭の堅い参謀連中など発狂してしまいそうな光景を、誰をどう言いくるめたのか蓮見大佐は実現させていた。
 もともと陸軍機として開発された海燕だが、設計段階から機体強度は日本軍機には珍しいほど充分にとってあった。海兵隊機として発着艦機能を求められたときも、そう大きな変更は必要なかったという情報も上官から仕入れていた。一式に較べると機体が重くなり着艦速度はかなり上がっているとのことだったが、着艦フック無しで糞重いソ連機を降ろした経験を持つ黒崎一飛曹からすれば、着艦はそう難しいことではない様に思えた。
 ブーゲンビル第2次派遣部隊として光鷹に着艦したのは戦爆20機と艦偵4機、予備分を含め定数ぎりぎりまで海兵隊機が詰め込まれた。予備の部品などの補充物資は光鷹がトラックで補給整備を受けている間に船倉に積み込まれていた。光鷹がトラックに着いてから約4週間後、光鷹は護衛艦艇数隻と小規模な機動部隊を編成、ブーゲンビルに向かう輸送船団の護衛をかねて作戦航海を開始した。海兵隊機はブーゲンビルに船団が到着するまで、各種訓練から対潜哨戒上空直掩と休む暇なく飛び続けることになるはずだ。古参を中心に組まれた先発の部隊に比べ、ジャクの割合が高い第2派にとって貴重な訓練期間になることを考えると、この忙しさもそう悪いことではないと黒崎一飛曹は考えていた。