龍神沼の自由帳

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戦争プランについて

 たいていの軍隊というものは、それを構築し維持していく上で仮想敵国を必要とします。たとえその国と対立関係でなくとも、その国が自国の安全保障上潜在的脅威であるとみなし、それに対抗できる能力を持つ軍を持つことを目標とし、その国と戦う為の戦略を作り上げ、それに合わせた装備の調達と、その国と戦うことを想定した戦術を研究し訓練を行います。これは自衛隊を含めて世界中の軍隊が普通に行っていることです。
 最近起ったレバノンでのイスラエルヒズボラの戦闘について、イスラエルヒズボラに対する攻撃を以前から意図しており、ヒズボライスラエル兵殺傷拉致はただの引き金になったに過ぎないとの主張を散見しますが、これは上に書いた軍事上の常識に疎い人たちの、誤解に基いた発言でしかありません。aあるいは誤解を誘発させる為の確信的なミスリードであるケースも考えられますが。彼らはイスラエルヒズボラの攻撃に対して迅速に反撃に出たのは、イスラエルが前もって戦争の準備を行っていたからだと主張します。戦争用の軍需物資*1が既に用意され、攻撃目標が設定されていたからあれほど大規模な爆撃が行えたと。確かに軍需物資は備蓄されており、ヒズボラ攻撃の為に作成された作戦計画もあり、想定された攻撃のための訓練も実施されていたでしょう。しかしそれは軍隊ならどこでもやっていることです。自衛隊だってかつてはソ連と戦う為の作戦計画を持ち、*2兵器を配備し、ソ連軍と戦う訓練を30年以上続けていたわけです。いざソ連が攻めてきたときに、さあどうやって戦おうか、燃料や弾薬を用意しなければとか言っているような軍隊など、存在価値0です、役立たずの張子の虎です。現在の自衛隊も中国や北朝鮮を仮想敵とし、それに対抗できる軍を構築しています。つまりそれが軍隊なのです。
 イスラエルにとっての仮想敵の中で、たぶん現実的な脅威も含めてヒズボラが第一位の存在となっているのは間違い有りません。なぜなら2000年にレバノン南部から撤退するまで、ヒズボライスラエルは20年近く戦い続けていたのです。そしてその後もヒズボライスラエルと敵対し、多数のロケット弾をイスラエルに向けて保有していたからです。当然イスラエルは対ヒズボラ戦のための軍事研究を続け、作戦を練り軍隊を訓練し、軍事物資を備蓄しています。それは軍隊が軍隊としてある為の当然の行動であり、なんら責められることでは有りません。戦争計画を持たない軍隊こそ、真に責められるべき存在なのです。故にイスラエルが攻められ国土がロケット弾攻撃に晒されたとき、直ちに反撃に移り戦争計画に従ってヒズボラ攻撃を開始できたのです。ほとんどの場合戦争計画は戦争をするために作られるのでなく、戦争になってしまったときのために作られるということが理解できない人が多すぎるような気がします。

 イスラエルレバノン侵攻を自ら起こす気があるのだったら、最初から地上軍を大量投入していたはずです。実際には本格的に地上軍の侵攻が進められたのはレバノン侵攻が始まってから20日後でした。

*1:砲弾とか燃料とか修理用の予備部品とかですね

*2:もちろん今でもロシアを仮想敵とする戦争プランは存在しているはずです。