龍神沼の自由帳

気が向いたら更新しますわ

横山信義『海の牙城』サイパン沖海戦を予想する、其の2

 [戦闘経過4]艦隊運動を続けながら、日本軍の要塞砲を集中攻撃で一つ一つ潰していく米戦艦部隊、堅固に防御された砲台から統制射撃を行うかつての戦艦主砲群、巨大な力を叩き付け合う戦いは果てしなく続くかに見えた。そんな中、50口径40センチ砲12門をもって破壊神のごとく猛威を振るっていたモンタナ級戦艦の舷側に、戦場に林立する着弾の水柱より一まわりほど小さい水柱が2本続けて立った。魚雷の命中によって起こった水柱だった。魚雷を放ったのは潜高小と呼ばれる53センチ魚雷発射管2門を持ち13ノットの水中速力で襲撃をかける、拠点防御用に建造された400トンにも満たない排水量の小型潜水艦だ。マリアナ防衛のために配備されたのは60隻余りで、大型の伊号潜水艦の建造数を削減して調達された。さらに常備排水量60トン、45センチ発射管2門を持ち水中速力16ノットを発揮する、甲標的から発展した特殊潜航艇蛟龍が150隻が配備されていた。日本海軍がこの戦場に投入できたのは潜高小40隻弱と蛟龍80隻あまりで、米軍の展開想定海域海中で待ち受けていた。これに対応すべき米駆逐艦群は、海岸一帯に配置されていた野砲との戦いに忙殺されており、また急遽対潜攻撃に向かった艦も、数において遥かに勝る日本軍の水中戦力に次々と返り討ちにあっていく。防御に優れた米戦艦群にとってみれば、2本や3本くらいの魚雷の命中は致命的な損害をもたらすものではなかったが、被雷によって生じた速力の低下は要塞砲の命中率を向上させることとなり、結局この水中からの襲撃が砲撃戦の勝敗を決する決め手となった。