龍神沼の自由帳

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パナマ運河の重要性

資料をあたるのが面倒なので仮定だけで進めます。
第2次世界大戦を扱った仮想戦史では、パナマ運河破壊とか、パナマ地峡占領というストリーがよくみられます。目的は、たいていの場合合衆国の大西洋側にある戦力の太平洋への移動阻止になっています。まあそれはそれで重要なんでしょうが、パナマ運河の使用不能が合衆国の戦時経済に与える影響のほうが、実はアメリカの戦争遂行能力にとって重要な問題であることは、ほとんどの仮想戦史ではあまり考察されていません。
パナマ運河を使わずホーン岬経由で大西洋から太平洋に物資を輸送すると、パナマ通過に比べ片道で大体5倍往復なら10倍程度の行程が必要です。実際にはその行程の間に枢軸国による通商破壊戦が想定されるため、護送船団の組成、対潜警戒航行等の必要、さらには船団形式で輸送するため貨物の荷卸しの混雑等も考えられ、その期間はさらに増加すると考えられます。パナマ運河使用可能時と同じだけの物量を輸送するのに5倍以上の船舶に加えて、本来ならほとんど必要でなかった大量の護衛艦艇が長期間拘束されることになります。当然いきなり5倍の船舶など用意できるわけがないですから、大西洋航路で援英物資の輸送に使用されている船舶や、同様太平洋の援ソ用の船舶を合衆国の東西間の輸送に転用する必要があります。もちろん大西洋航路で船団護衛に使われていた艦艇も、こちらに一部転用しなくてはいけません。それだけでは十分な船腹を満たすことはできないでしょうから、輸送力の不足分は北米大陸の陸上輸送ルート、鉄道輸送や貨物トラックによる輸送に頼らなくてはいけません。船舶輸送に比べ陸上輸送は非常に効率が良くないうえ、自動車に比べ比較的効率のいい鉄道輸送は線路の関係で拡大にも限りがあり、そこで補えない輸送量はすべて自動車による貨物輸送に頼らざる得ません。これがどういう結果をもたらすかというと、本来なら戦場で使用されるはずの大量の車両が国内での貨物輸送に使われてしまう。もちろんそれを運転する大量のドライバーが必要であり、本来なら生産現場や軍で働くべき人力がそこに取られてしまう。さらに大量輸送の結果として起こる道路や鉄路の損耗の補修のため、これも本来戦場で必要とされている資材やマンパワーがそこで消費されてしまう。この結果、戦争遂行に必要な軍事への人的物的集中が不十分になり、戦争が長期化してしまう、ということになります。もちろん大量の船舶が東西間の輸送に必要になることによって起きる戦争への影響のほうも重大で、下手すれば大陸反攻が不可能になりかねない程のものになるかもしれません。