龍神沼の自由帳

気が向いたら更新しますわ

楽園の対価

俺、この戦いが終わったらこの娘と結婚するんだ
そういってジャスティンは戦闘支援携帯個人端末の画面を俺たちに見せた
え、なに?じゃあ俺とJは兄弟になっちゃうのかよ
ヤン・リーが素っ頓狂な声を上げる
ちょと待てよJ、こないだ俺が嫁見せたときにお前さんざん馬鹿にしたくせに、お前俺と一緒なんてざけんなよ
クルツが顔を真っ赤にして怒り出した
なんだお前ら三人みんなおなじ嫁かよ、気が合うんだな、仲良くやんなよ、俺は妹のほうを嫁にしててよかったぜ
分隊長のアンリが笑いながら言った
大口径のソニックカノンが飛び交い、パルスレーザーが全てをなぎ払う地獄の戦場を忘れさせたひと時だった。

2010年、衰退が続く日本のアニメ業界とゲーム業界は国民の2割近い会員数を誇るネットサービス会社を巻き込んで、生き残りをかけた一大プロジェクトを始動させた。「俺の嫁システム」、これがそのプロジェクトネームだ。
アニメおたくという人種が誕生して以来、数多くの「俺の嫁」がモニターの中から生み出されそして消えていった。多大な労力をかけて作り出された2次元のヒロイン達は、うつろう時の流れのほんの一瞬輝き、そののちは記憶と記録の中にのみ存在しやがて忘れ去られていく。そんな彼女達を忘却の海から掬い上げ、おたく達からとことん金を搾り取ることを目的として、このプロジェクトは企画された。
そのヒントとなったのは、DLCで搾取しまくりの某アイドル育成ゲームと、ゲーマーをゲームの時間軸に巻き込んで彼らの生活までも拘束してしまった某恋愛シミュレーションゲームだった。コアな一部のファンが取り込まれているその分野にゲームやTVアニメが創り出した最強ヒロイン達をフュージョンする。かつて愛した2次ヒロイン達が、携帯ゲームから、携帯電話から、PCのモニターから、大画面TVから君にささやく、甘える、恥じらう、泣く、笑う、装う、歌う、踊る、それは時にランダムに、あるいは君が望むままに、突然に、君を驚かせ、君をとろけさせ、君を絡め取り、君のすべてを奪う。すべてはひとつに、ひとつはすべてに、システムの統合と最適化、数多くのコンテンツの取り込み、携帯ゲーム、携帯電話、PC、あらゆる仕様が相互に接続できる場を作り出し全てを支配することにそのプロジェクトは成功した。そしてそこに取り込まれた者たちのために、彼らを公式の場で嫁と結ばれることを可能にした。公式が認定した彼らの嫁には、それぞれシリアルナンバーがつく。それぞれの元のコンテンツをそのまま3D化した彼らの嫁は、公式嫁認定された瞬間からカスタム化がはじまる。もちろん公式で設定されたカスタム化の範囲から逸脱することはないが、性格やしぐさなど多種多様なものが、彼らの嫁への接し方によって変わってゆく。おなじ服を着ていてもルーズな感じになったり、きちんと着込んでいたり、ちょっぴり色っぽかったりと変化が出てくるのだ。
2011年春にスタートしたこのサービスは、たちまちに日本を席巻することとなった。このシステムを使えば、バーチャルアイドル、バーチャルペット、バーチャルフレンド、バーチャル妹、バーチャルばあちゃん、国民それぞれが望むものを作り出すことが可能であったため、国民の過半近くがこのシステムの住人となっていった。
そして日本から世界へとネットを通して瞬く間にこの波は広がっていった、2012年、日本の大半が突然現れた金星人によって武力支配されるまで・・・