龍神沼の自由帳

気が向いたら更新しますわ

安く売ればいいってもんじゃないでしょう

 ゼロ金利が解除され、消費税も改定されそうな昨今、アメリカでは消費者物価が上がりインフレが懸念されているというのに、日本では季節要因で多少物価が上がることはあっても、基本的にはデフレ基調が続いています。いまだに一部のものを除いて商品やサービスは適正水準を下回る価格で提供されており、生産者や販売者は本来なら手にすべき利潤を吐き出しながら価格競争に邁進しているわけです。こういう状況下においては一握りの人たちを除いて、働けども働けども労働者はその労働に見合うだけの対価を手にすることができないわけで、見かけ上の好景気の中その不満は非常に高まっていると思われます。こういう赤字覚悟の行き過ぎた販売競争が維持されている原因はいったいなんなのでしょうか。
 まず考えられるのは、安売りは消費者のためだとか市場での競争に勝ち抜くことが正義だとか言う錦の御旗の元で、企業内では市場環境の悪化に対応するという名目で成果主義に名を借りた賃金引下げを続け、社外では取引先に対して圧力をかけ取引条件を自社に有利に引き上げていくという企業経営の有り方です。もちろん一概にこれが悪いといっているわけでは有りません、企業として市場競争に勝ち抜こうとする意志がある以上資本主義の世の中では当然のものとして認められる行為ですから。ただこの形は、かりにそれが成功しその企業が市場の覇者になったとしても、その恩恵はその企業自体や株主に対しては大きくもたらされるものの、同様にステークホルダーであるはずの企業労働者に対しては成果主義の原理が働き、一部の企業内成功者を除いてはわずかな見返りしか配分されない仕組みになっています。いわんや市場の勝者になれなかった企業ではより一層の労働条件の悪化につながっていきます。この行き過ぎた形での市場原理主義は、現在進行形で企業の雇用形態を大きく変革しており、終身雇用の否定、契約社員やパート従業員の増加、分社化による転籍等の手段による雇用条件の引き下げ等につながっています。そしてその結果が消費者の購買力の低下であり、市場価格の一層の低下であるという悪循環です。
 もう一方で起っているのは、販売現場での価格価値の破壊です。従来物の価格というのは、製造原価+流通経費+適正利潤で構成されており、その中で人気のあるものは販売価格を維持し売れない商品はよりやすい価格で提供されるという成り立ちを持っていました。ところが現在の市場では、一部の売れる商品にどの販売店でも人気が集中する為、その人気商品の中でだけ販売競争が起りより安い価格をつけたところが勝者になるという形がスタンダードなものになろうとしています。つまり人気商品といえども、それが製造者にも販売者にも大きな利益をもたらさない仕組みができているのです。この原因はどこにあるのでしょう。似たような企画で他社とたいした差異のない商品を製造する生産者にあるのか、ヒット商品に集中するという安易な販売法をとる販売者にあるのか。同様ヒット商品に群がる消費者にあるのか。ひとついえるのはかつてはいかに大企業といえどもヒット商品の生産拡大は簡単にできず、必要とされる量の商品が市場にもたらされるのにかなりのタイムラグがあったのが、現在では生産方式の改良により短期間に大量の商品を提供できるシステムが出来上がっていること、流通でも同様に大量の製品を一気に調達することが可能になっていること、そしてもうひとつの要因として、消費者はかつてのように物に餓えていない、じっくり待ってほしい商品が要求する価格になるまで購入に動かないようになったことがあります。*1こういう状況下では競合商品に消費は流れず、比較的短期間に商品が潤沢に出回るため消費者は競合店でじっくり価格の比較ができ、故に販売店は競合他社に対する優位にたつためには価格で勝負するしかできない。現在のように大量仕入れ大量販売のシステムが確立された流通形態の中では製造者より販売者のほうが優位にたっており、故にヒット商品を開発して同業他社に対して優位にな立場にいるはずの製造者も、販売からの仕入れ価格低減要求に抗することはできず商品のヒットに見合っただけの利益を得ることができません。そして消費者もまた労働者であるからには、企業が充分な収益をあげることができなければその収入が増加することは無く、ここに誰にもメリットがない不毛の市場社会が出来上がっているわけです。*2
 結局のところこの行き過ぎた市場競争が、我々日本国民の社会環境や生活水準をスパイラル状に引き下げているわけで、この流れは人為的に打破していかないといずれは日本社会のモラルハザードさらには経済的破綻につながるような気がします。なぜならこれは日本国内だけの話ではなく、お隣の超大国が絡んでくるからです。安売りなら本家の中国のほうが何枚も上手、日本企業が国内で体力をすり減らしている間に、中国企業が力を付け日本企業を世界市場はおろか日本国内においても駆逐してしまう可能性を否定することはできないでしょう。製造業者も販売業者も消費者も、そろそろ適正な(利益の取れる)価格水準というものを考えていく時期が来ていると思います。別に価格カルテルなんかを結べとかいっているのではなく、過剰な価格競争のデメリットが行き着く先をしっかり見据え必要な手を打つべきだと考えているわけです。

*1:ひとつの事例としてタマゴッチがあります。現在のタマゴッチの成功は企業努力もありますが、消費者の購買行動の変化のほうがより影響が大きいと思われます。

*2:色々な意見があるとは思いますが、現代社会で潤う人の大半は資産家階級でしょうね、後は公務員とか不労所得者とか